教育ICTリサーチ ブログ

学校/教育をFuture Readyにするお手伝いをするために、授業(授業者+学習者)を価値の中心に置いた情報発信をしていきます。

広尾学園 ICTカンファレンス2014(2014年10月14日)

 広尾学園 ICTカンファレンス2014に参加してきました。午前中は、中学校1年生から高校1年生までの全12種類の授業が公開されました。午後は、生徒を招いてのパネルディスカッションから、医進・サイエンスコースとインターナショナルコースの先生によるプレゼンテーション、教職員パネルディスカッションと続くプログラムです。
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 広尾学園は、定員1500名のところを500名くらいにまで落ち込み、そこから共学化と進学校化を図ってV字回復した学校です。一人1台の学習環境を実現していますが、現在では、本科はiPad、医進・サイエンスコースはChromebook、インターナショナルコースはMacBookと、それぞれのコースによって求めている使い方が違うため、導入している機器が異なります。これは、例えば医進・コースであれば発表資料を作ったりというようなクリエイティブなことをやろうと思うと、iPadではちょっと荷が重いからだ、ということです。こうして、「どのような学びの場を作りたいのか」が明確になっていて、それに合わせた機器を導入する、というのは当たり前のように聞こえて、意外と簡単ではありません。

目的を明確にして「道具」として使いこなしている授業

 理科の実験を見学したときには、実験の手順はiPad上で確認をしていました。また、異なる質量で反応をみたときの実験数値をGoogleスプレッドシートに入力することで、データを共有してグラフ化していました。「グラフを描く」という実際のアクションよりも、グラフを描いてみて、「どう数値が変わっていくかを推測、試算する」ということの方が学習のねらいであるはずなので、グラフを簡単に描くということがデジタル化されることで、授業の目的に生徒たちがフォーカスできるようになっていると感じました。
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聞き手に「調べる自由」を与えるプレゼンテーション

 医進・サイエンスコースのプレゼンテーションも見学しました。プレゼンテーションを取り入れている学校は多いですが、広尾学園ではGoogleドライブを用いてプレゼンテーションファイルを共有しているため、手元のChromebookでオーディエンスも皆ファイルを見ている、という状況でした。実は、こうした運用をしている学校はあまり多くありません。なぜなら、手元で作業をしたり、関係ないサイトを見たりすることを避けたいからです。
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 今回の授業でも、別のサイトを見ていたり、プレゼンテーションで話されているのとは違うページを開いている生徒もいましたが、どちらも「これってどうなってたっけ?」「さっきはどう言ってたっけ?」というふうに、調べたいときに調べられるように、あえて自由を与えている、という印象でした。
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 自由を与えていることによる学びの効果は、プレゼン後の質疑応答で見ることができたと思います。通常、プレゼンの後の質疑応答は、そもそも数が少ないのが通例ですが、そうしたものではなく、「スライドの10ページですが…」というふうに、きちんと議論になっています。また、質問に対して発表者がホワイトボードに図を描いて補足説明をしたりもできていることからも、こうしたプレゼンに慣れているな、と感じました。

 これも、先ほどの理科の実験と同様に、「こういうプレゼンテーションができるようになってほしい」「こういう質疑応答ができるようになってほしい」という、“目指す教室像”が明確にあるからこそ、そのための手段としてこのような運用方法をとる、というのを決めたのだと思います。

目的を明確にして、その目的に適しているところにICTを導入する

 広尾学園でのICTの導入は、この「目的に適しているか」の観点が明確になっていることがすばらしいと思います。「導入したから使いましょう」ではない。事実、公開授業に設定されているにもかかわらず、冒頭での確認だけで使うだけで、あとは既存の授業でほとんどiPadを使わなかったクラスもありました。これは、既存のスタイルの方が、学習のねらいに適しているからだと言えるでしょう。これも、言うのは簡単ですが、実行するのは大変です。

 午後のパネルディスカッションの中で、「教育の「不易」の部分を揺るぎないものにしているからこそ、「流行」の部分を追える」という話が出ていましたが、まさしくそうした部分だと思いました。
 ICTの導入は、これまで各教科の先生方が築いてきた教授方法に新たな選択肢を与える道具となるべきものであって、既存の教授法との入れ替えではありません。

 例えば、事例として出されていた反転授業についても、先生へのリクエストは「思考の過程をすべて晒してほしい」ということだそうです。それは、先生方が生徒に与えたいのは「考える手段」だからです。そのためには、思考の過程が見える方が、より伝わりやすいから。ただし、思考の過程をすべて伝えていたら、授業時間が足りません。だから、その部分は反転授業にして授業時間外に見てもらう、という形をとる、と。目的から遡って手段を考えているという良い例だと感じました。

 すべての方法が、どの学校でもすぐにできるものではありません。少しずつ、積み上げていくことが必要です。
 いま、こんなに先進校となっている広尾学園でも、最初はiPadをもたせて、「辞書とネット検索」機能として使ってもらうところから始めたそうです。

 目的を明確に、スモールステップで導入していく。このことが非常に重要だと考えます。広尾学園が、まだこれからどのように変わっていくのか。また、生徒たちがどんな活躍を見せてくれるのか、今後も追い続けていきたいと思います。

(研究員・為田)