教育ICTリサーチ ブログ

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武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)」第一次検証報告書を読んで(1/2)

 先月、授業を見学に行きました武雄市ですが、いろいろなニュースが立て続けに出てきました。

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 実際に学校を見に行った限りでは、こういった場面には出会わなかったのですが、「だからこの記事みたいなことはない!」とも思わないし、この記事の通り「武雄の教育現場はひどすぎる!」とも思わない。どちらの場面もあるのだろうな、と思うのです。その中で、いいところを残し、悪いところを減らす、ということ以外にはないのではないかな、と思います。

 そう思っていたところで、ちょうど武雄市「ICTを活用した教育(2014年度)」第一次検証報告書が出ました。
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スマイル学習とは何か?

 報告書では、どのようにして武雄市が「ICTを活用した教育」導入の経緯を説明し、その後で、スマイル学習について紹介をしています。スマイル学習は、反転学習で、学校で「ねらい」の説明の部分と「ひとり学習」のところを家庭学習に持って行き、授業中の学習活動を協働学習と発展学習にあてる、というものです。
 ちなみに、スマイルは「School Movies Innovate Live Education classroom」の略です。小学校では2014年5月から全小学校の3年生以上の算数、4年生以上の理科でスマイル学習は行なわれています。
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 スマイル学習は、「反転学習は低学年には無理じゃないのか?」と言われることも多いのですが、すべて時間でスマイル学習を行うわけではありません(これは、藤原先生がDiTTのシンポジウムでもおっしゃっていました)。図表6で、スマイル学習の対象がどれくらいなのかが示されています。
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 感覚的には、低学年ほどスマイル授業は難しいような気がしていて、学習の動機づけができるようになってくる高学年に向かうにつれ、徐々に比率が上がっていくのあかん、と感じていました。数字を見てみると、理科に関してはそうなっているようですが、算数に関してはそうでもないようですね。

スマイル学習実施状況

 さて、ここからいよいよいろいろ分析が始まるかな…と楽しみに読み進めて、「スマイル学習実施状況」というところなのですが、これがよくわからない。図表は以下のとおりです。
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 これ、AからKまでが各小学校になっていて、それぞれの学校でのスマイル学習実施率なのですが、いくつかはっきりしているといいなと思った点は…

  • 「スマイル学習実施率」とは何かがわからない。さっきの図表6で示されているコンテンツ数がある中で、そのコンテンツをどれくらい見せているのか、ということなのでしょうか。
  • 学校ごとに数字を丸めてしまわないで、学年ごとに分けて数字を出すべきだと思います。学年によって、学習の仕方も変わると思われるので、age-appropriate(年齢にあっているかどうか)も含めて見るために、分けてみるべきだと思います。
  • そのうえで、算数で最も実施率が高いB校が95%、最も低いのはK校の43.6%。この数字の違いの原因について分析してほしいな、と思います。(報告書では、「学校マネージメントの違い」を一つの理由と挙げていますが)

スマイル学習の目的と達成度

 スマイル学習の目的は3つ挙げられています。

  1. 生徒・児童が、より意欲的(主体的)に授業に臨める。
    • 知識の習得は、時間と場所を限定せずにマイペースで行う
    • 事前知識を持つことで、主体性を育む
  2. 教員が、学習者の実態を正確に把握して、授業に臨める。
    • 「完全習得学習」を実践する
  3. 授業では、「協働的な問題解決能力」を育成する。
    • 授業では、社会性やコミュニケーション力などを育む、「高次能力学習」を実践する

 と書かれていますが、今回の報告書では、目的1を中心にスマイル学習の成果検証を行うとしている。目的2と目的3も非常に興味深いので、第二次報告を楽しみにしたいと思います(教員アンケートや、児童の学習態度や理解度のデータを用いて示すとのことです)。


 生徒・児童がより意欲的に授業に臨めるか、という目的1を検証するために、算数と理科において、「明日の学校の授業が楽しみですか」という質問に対する結果が示されています。
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 これも、せっかくだから、もう少しいろいろ知りたいな、と思ってしまいます。

  • まず、学年別に分けるべきだと思います。理由は先ほどと同じ。学年によって、スマイル学習の効果が違うのか、どの学年に効果があるのかを検証するため。
  • 月ごとに推移を出すのであれば、スマイル学習の実施率も月ごとに出した方が相関関係が出せるのではないかと思うのですが。
  • 学校ごとでスマイル学習の実施率を出してあるのですから、学校ごとで見たいな、と思います。


 次は、同じく算数と理科で「授業の内容はわかりましたか?」という質問をしています。
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 こちらに関しても、せっかくだから!と思ってしまいます。

  • さっきの「明日の授業が楽しみかどうか」はアンケートでいいと思いますが、「授業の内容がわかりましたか?」については、アンケートだけではちょっと不足でしょう…。テストで習熟度を測るべきだと思います。
  • 学年別に分けるべきだと思います。理由は先ほどと同じ。学年によって、スマイル学習の効果が違うのか、どの学年に効果があるのかを検証するため。それと、理科に関して、5月に「あまり分からなかった」「全く分からなかった」と答えた児童が20%ほどいたが、6月からは10%に満たない人数に減っている、と書かれているが、これは学年別に出してみたら、もっといろいろと分かるのではないかと思います。
  • 月ごとに推移を出すのであれば、スマイル学習の実施率も月ごとに出した方が相関関係が出せるのではないかと思うのですが。

スマイル学習実施率とスマイル学習前後の正答率変化の相関

 最後に、図表19で小学校5年生算数のスマイル学習実施率と、スマイル学習実施前(2014年4月)の成績と実施後(2015年4月)の成績の変化率の相関を分析している。
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 相関関数は、-0.20697となり、正の相関関係は見られなかった、ということだった。今後、データを積み重ねてさまざまな相関関係の分析を行う、ということなので、今後に注目したいと思います。
 生データほしいなあ、と思いますけど、さすがに無理ですよね…。

 成績データも含まれるので、個人情報の問題もあって、非常に難しいと思うのですが、こうしてデータを使って検証していこうとすることが非常に大切だと思います。教育委員会の先生方の中には、「教育は数字では測れない!」とこうした分析に大反対な方もいらっしゃると思います。この「教育は数字では測れない」という言葉は、100%正しくはなくて、正しくは「教育は数字では測れないこともある(でも、測れる部分もある)」ということだと思います。
 さまざまな施策(今回の武雄市のように、予算をつけて機器を導入したりする場合は特に)を行なった後で、その成果を測るために、データを使って数字で検証するのは大切なことだと思います。
 今後の分析に期待したいと思います。

(研究員・為田)